歯がない状態が招く
恐ろしい8つの悪影響
歯がない状態による、審美的・機能的な悪影響は自覚できると思います。しかし、それだけでなく脳や免疫系、全身疾患リスクへの悪影響も懸念されます。
「1本くらいなくても問題ない」と思う人も少なくありませんが、恐ろしい悪影響を防ぐため、歯を失ったら適切な補綴治療を受けることをおすすめします。
目次
1.認知症の発症リスクが高まる
認知症の原因は明確になっていませんが、残っている歯の本数と認知症の発症率は深く関係していて、次のような調査結果があります。
咀嚼と脳の関係について読む
- 歯がほとんどなく入れ歯も使用していない人は、自分の歯が20本以上残っている人に比べて、認知症の発症リスクが約1.9倍に高まる。
- あまり噛めない人は、何でも噛める人に比べて認知症発症リスクが1.5倍になる。
- 残っている歯が19本以下の人は、20本以上の人と比較すると、要介護となるリスクがおよそ1.2倍になる。
よく噛めないと脳への血流量が減る
よく噛めないと、脳に伝わる刺激が減り、脳への血流量が減ってしまいます。
咀嚼によって口を動かすことは、唇や歯茎、顎、舌、粘膜などに刺激があり、それが脳に伝わることで脳が活性化し、血流量が増加するとされています。
大脳皮質の感覚野という部分に伝わる3分の1もの刺激が、口やその周辺で受けた刺激によるものです。噛むことによる感覚刺激は、脳への大きな刺激であり、脳の血流量や働きに大きく影響しているのです。
目次へ戻る2.肥満・糖尿病になりやすい
よく噛んで食べると満腹感を得やすいです。これは、咀嚼によって満腹中枢が刺激され、空腹が満たされるためです。また、咀嚼には「グレリン」という食欲を増進するホルモンの分泌を抑制する働きもあり、よく噛んで食べることで食欲をコントロールできます。
咀嚼回数が多いほど、1回の食事で摂取するエネルギーを抑えることができ、「食べ過ぎ」を防いで肥満を予防できます。失っている歯が多いほど、咀嚼回数が少なくなりやすく、肥満を招きやすくなります。
さらに、歯がないことで「早食い」になることは、食後の血糖値が高くなりやすいため注意が必要です。失っている歯が多いほどよく噛めないため、早食いになりやすいです。食べるのが早いと、インスリンの分泌が間に合わなくなり、食後の血糖値が高くなってしまいます。
食べ過ぎや肥満は、糖尿病の発症・進行の原因になることから、糖尿病予防の観点からも、よく噛んで食べること、よく噛むための歯を維持することが大切となります。
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糖尿病になるとさらなる歯の喪失を招く
糖尿病は、歯周病のリスクを高めます。糖尿病になると、抵抗力の低下・創傷治癒の遅延などが起こり、歯周病が発症・進行しやすくなるのです。歯周病は、「糖尿病の第6番目の合併症」とも呼ばれています。
歯周病になると、さらに歯を失うリスクが高くなってしまいます。このような悪循環を生じないように、歯が抜けたままにしておかないことが大切でしょう。
目次へ戻る3.脳血管疾患の発症リスクが高まる
脳血管疾患とは、脳梗塞・クモ膜下出血などの脳卒中を含む、脳の動脈に起こった異常により発症する病気の総称を言います。2015年死亡原因の第4位にもなっている、命にかかわる疾患です。また、要介護となる原因の第1位でもあります。
脳血管疾患の原因はさまざまありますが、高血糖や脂質異常、高血圧などが直接的な原因になりやすく、これらは食生活と大きく関係しています。先に述べたように、歯がない状態によって、よく噛めない状態が続くと、食べ過ぎを招きやすいです。このことが高血糖や脂質異常などを引き起こす要因となるため、よく噛んでたべること・よく噛むための歯を守ることが大切となります。
また、脳血管疾患は歯周病と深く関係していて、歯周病の原因細菌が作り出す物質は、動脈硬化を促進するため、歯周病がある人は特に発症リスクが高くなると言えるでしょう。
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脳血管疾患によってさらに咀嚼能力が低下する
脳血管疾患は、咀嚼能力や嚥下機能を低下させる原因になります。食事を楽しめないだけでなく、食事をうまく摂れないことにより、体重の低下や脱水、低栄養、誤嚥性肺炎などを引き起こす原因にもなってしまいます。
脳血管疾患は、QOL(生活の質)を著しく低下させかねない疾患です。よく噛むための歯を守り、予防に努めることが大切です。
4.次々と歯を失う
歯が抜けたままにしておくと、噛み合う歯が伸びてきてしまったり、隣り合う歯が傾いたり移動したりしてしまいます。そのため、噛み合わせの乱れ、歯と歯の隙間が広くなることによる口腔内の不衛生(汚れが溜まりやすくなる)を招きます。
また、歯がなく噛めないために片方でばかり噛む癖がつくと、さらに噛み合わせの悪化を促進してしまいます。
悪い噛み合わせや口腔内が不衛生になりやすいことは、虫歯や歯周病の原因となり、さらに歯を失うリスクを高め、悪循環をまねきかねません。
また、噛み合わせが乱れることによって、顎関節症を引き起こす場合もあります。
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1本でも歯を失ったら、補綴治療が必要です
「1本くらい歯がなくても問題ない」は間違いです。歯がないことに不快感や不都合を覚えていなくても、歯がないことによる悪影響は見えないところで少しずつ進行していきます。
奥歯などの目立たない部位であると、すぐに補綴治療を行わない人も少なくありませんが、悪影響が出てからでは遅いです。抜歯が必要になったら、それと同時にどのように歯を補うのか(どの補綴治療を行うのか)を医師と相談することが大切でしょう。
目次へ戻る5.転倒しやすくなる
過去1年間に転倒の経験がない、65歳以上の健康な人を対象に行った調査で、残っている歯が19本以下で義歯を使用していない人は、20本以上の歯が残っている人に比べ、転倒のリスクが約2.5倍になるという結果になりました。
残っている歯が19本以下であっても、義歯を使用している人は1.36倍と転倒リスクが低くなっており、歯のない状態で放置している人は転倒リスクが高くなることがわかりました。
歯の喪失と転倒は全く関係がないように思う人も少なくないでしょう。しかし、歯の喪失は体のバランスに影響していて、顎の位置が悪くなりバランスが乱れることで、体全体がアンバランスになって転倒を招きやすくなるのです。
転倒のリスクを読む
転倒が寝たきりを招く
高齢になるにつれ、転倒によって骨折しやすくなります。また、骨折が原因で寝たきりになってしまうケースも珍しくありません。
高齢者が転倒により骨折しやすい部位はさまざまありますが、特に寝たきりにつながりやすいのは大腿骨頚部(足の付け根)の骨折であり、歩行が困難になって寝たきりになりやすいです。
また、高齢者は歩行能力の回復に時間がかかるため、大腿骨頚部骨折から1年が経過しても約2割の人が寝たきりであると言われています。
高齢者にとって転倒は、健康寿命を縮める要因であり注意が必要です。転倒を防ぐためにも、歯がない状態を解消することが大切です。
目次へ戻る6.胃と大腸に大きな負担をかける
咀嚼は、食べ物を細かく砕いて消化吸収しやすくしますが、咀嚼による効果はそれだけではありません。咀嚼によって唾液の分泌が促進されると、食べ物が飲み込みやすくなったり、唾液の成分によって食品の刺激が弱められ、胃にかかる負担が軽減されたりします。
また、唾液には消化酵素としての働きもあり、お米などに含まれているデンプンを分解し、消化されやすいアミラーゼに変え、胃や大腸にかかる負担を軽減しています。
このように、咀嚼には唾液分泌を促進するなどのさまざまな働きがあり、よく噛まないで食べることは、胃や大腸に大きな負担をかけてしまうのです。
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よく噛まないと胃酸が十分に出ない
よく噛むことによって、食べ物は細かく砕かれ、表面積が大きくなります。しかし、よく嚙まなければ、食べ物の表面積は小さくなり、胃酸が十分に分泌されなくなってしまいます。
胃酸は、食べ物の表面積に合わせて分泌されるため、よく噛まずに飲み込むとその分胃酸の分泌量が減ってしまうのです。
よく噛んで食べ、十分に胃酸を分泌し、胃や大腸の負担を軽減することは、さまざまな疾患の予防につながります。
7.免疫力が低下する
歯がない状態を続けていると、顎の骨(歯槽骨)の減少に伴い、口の周りの筋力(口腔周囲筋)の低下、舌骨の位置の低下などを招きます。下顎の周囲にはリンパ節が多く存在していますが、この周辺の筋肉が衰えるとリンパの流れが悪くなり、免疫力が低下してしまいます。
リンパは筋肉の収縮や弛緩によって流れますから、リンパ節が多く存在する下顎(広頸筋部分)の筋力低下は、リンパの流れを悪くしてしまうのです。
歯を失うことは、単に噛みにくくなるだけでなく、口腔周囲筋の衰えやリンパの流れの悪化、それに伴う免疫力低下を招きます。
免疫力と発がんの関係を読む
免疫力が低下すると発がんリスクが高まる
免疫力が低下すると、がんが発生するリスクが高まります。免疫細胞はがん細胞を排除し、がんが進行するのを抑制してくれるのですが、免疫力が低下するとがん細胞の増殖を抑制できなくなってしまうのです。
免疫力が低下する原因はさまざまですが、歯がない状態を続けることも一つの原因となります。近年、がんは「国民病」と呼ばれるほど日本人が多くかかっていて、死因の第1位となっている病気です。
がん予防のために、免疫力低下を招く要因を減らすことが大切でしょう。
8.ドライマウスになりやすくなる
歯を失うと、顎の骨(歯槽骨)の吸収が少しずつ進みます。歯を支える歯槽骨の幅や高さが減っていくのです。それに伴い、舌は肥大し、本来の舌の位置に移動することが困難になったり、舌の動きが鈍くなったりします。
舌の動きは唾液の分泌に大きく関係しているため、舌の動きが鈍くなることによって唾液が出にくくなります。また、舌の位置が下がると、下顎が支えきれずに口呼吸になりやすくなります。
歯がない状態を続けていると、舌の動きや位置に悪影響が及び、唾液分泌の減少・口呼吸を招きます。これによって、ドライマウスになりやすくなるのです。
ドライマウスの悪影響を読む
ドライマウスの恐ろしい悪影響
ドライマウスは、虫歯や歯周病のリスクを高める・味覚障害・嚥下障害・発音障害・口臭・舌の痛みなど、さまざまな悪影響を及ぼします。
しかし、ドライマウスの原因が口呼吸である場合、さらに多くの悪影響が懸念されます。
口呼吸になると、ドライマウスを招くだけでなく、免疫力の低下や酸素飽和度(血液中の酸素濃度)の低下などを招くのです。血液中の酸素濃度が低下してしまうと、脳に送られる酸素量も減ってしまうため、集中力の低下などを招く場合があります。
さらに、いびきによる低酸素症が、大腸がんや心筋梗塞を併発させる場合もあります。口呼吸はさまざまな疾患と関連があるため、口呼吸に気付いたら早めの対処が大切でしょう。